文章リスト

音楽/音楽家矛盾一覧

――よく聞く話に、
「古いことわざは、矛盾しているところを見つめると深みがでてくる」
というのがあります。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず」。だけど、
「君子危うきに近寄らず」。
片方だけでは薄い。両方見つめると、深みが出てくる、と。

以下は、音楽家の皆様が口にしたり、又筆者自身の中にもしばしば見い出される矛盾を列挙したものです。お読みになる方がこれらの矛盾から、何かを深めて行ってくださるなら、筆者としては幸いでございます。尚、筆者には決して、議論を挑発したり、人々を混乱に陥れる意図はございません。ご不快に思われる場合はお読みになるのを中止なさって下さい。
又、以下には、音楽そのものが内包する矛盾というよりむしろ、“人間の精神生活と経済生活は本来全く別の法則に基づいている”ということから生じている、“音楽家という職業が抱える矛盾”なども多く混入しております。近年、音楽家という職業を取り巻く状況や音楽家という概念が大きく変化しつつありますので、以下は折を見て推敲したり、改編したり、場合によってはページそのものを削除する日がくるかもしれません。
以上、あらかじめ、くれぐれもご了承下さい。




・メロディーは和声の自由の邪魔をする。
・和声はメロディーの自由の邪魔をする。


・これからの時代、一つの事にうち込んで生きていくのは無理だ。無限のヴァリエーションがなければ食っていけない。何でも出来なければならないんだ。
・このような時代、もはや頑固で一途なアーティストにしか関心がわかない。よほど強い独自性がなければ情報過多の中に埋もれる。必要なのは完全な個性だけだ。
・完全な個性は全く無意味だ。もし完全な個性などというものが存在したなら、それはその本人にしか判らないものじゃないか。その人以外にはそんなもの価値があるはずが無いだろう。


・客のニーズに応えるのが仕事というものだ。やりたいことやって金にするなんて勘違いも甚だしい。常に聴衆のことを、顧客のことを、消費者のことを考えなければ話にならない。音楽家はサービス業なのだ。サービスしないサービス業など、不誠実で話にならない。
・客へのサービスなんかに気を遣うと、作品はボロボロになってしまう。常にその音がどうあるべきか、その次の音はどうあるべきか、自分はほんとうのほんとうはどうしたいのか、それだけを、それだけを考えて音楽は行われるべきだ。そういう誠実な音楽こそ、世に出るべきであるし、またそれは人の心にきっと伝わるはずだ。


・常に世の中の動向に目を向けてろ。人々が何を欲しているのか調べる努力を怠るな。
・リサーチなんか無意味だ。そもそも「こんなのが欲しい」と人々が口にするということは、既にありふれた、だれにでも思い浮かべることができるものだということなんだから、売れるものにはならないじゃないか。


・クラシックが12音に、ジャズがフリーになるように、すべての秩序は解体される運命にある。最期に残るのは、ノイズ/カオスだけなんだよ。
・ガス状の固まりも、いつしか法則に則って惑星となり、法則に則って配置され、法則に則って運行される。どんなカオス/ノイズも、いつの日か精緻な秩序に行き着くのだよ。


・勉強を怠るな。音楽の勉強は生涯続くものだ。
・勉強は最小限にしとけ。さもないと自分の音を見失う。


・どんな種類の音楽でも、日々耳を傾けること。どんな曲からも、学ぶべき点はある。
・自分にとって無用な音楽は耳にしないほうがいい。無駄に疲れるだけだ。


・仕事上必要な、“聴かなければならない”音楽だけを聴いていると、だんだん“すれて”いってしまう。休日くらい、好きな曲でも聴こう。
・そもそも作曲家が他人の曲なんか聴くな。恥ずかしいと思わんのか。


・静寂を良く聞け。
・静寂なんぞ実在しない。


・結局は、音楽は聴き手とのコミュニケーションなんだよ。
・結局は、音楽家は聴き手とコミュニケーションできないものなんだよ。


・競争しないからダメなんだよ。どこの土俵にも乗らないで自分だけでやってたり、仲間内で閉じたりしてたって、結局、進歩もなんにもないじゃん。
・競争するからダメなんだよ。どっかの土俵に乗って、そこでどんなに掘り下げても、どこまでよじ登っても、結局その土俵の狭さが分かんなくなるだけだよ。自分以外の価値観に帰依したって、なんにもならないじゃん。


・なんだかんだ言っても、最後には、自分をつらぬく奴が残るんだよ。
・なんだかんだ言っても、自分をつらぬく奴って、最後にはみんな消えてくよな。


・気楽にいこうよ。
・だれるんじゃねぇよ。


・考えすぎるなよ。なんにもできなくなるぞ。
・考え抜けよ。ダメになるぞ。


・もしほんとうに本気でミュージシャンをやっていこうと思うなら、ライブハウス回り、ショップ回り、サイト管理、プロモート、人脈作り、寝るヒマなんか無いはずだ。
・もし本当に本気で音楽に生涯を捧げようとするなら、学習、練習、内観、瞑想、その果てしない道程の中で、経済なんぞ気にかけるヒマはないはずだ。


・たとえモノラルでも音楽として成立するほどの力を曲に込めなければならない。
・ステレオはステレオ、サラウンドはサラウンドでなければ成立しない曲を作らなければ意味が無い。


・音楽の本質はライブだよ。当たり前だろ。
・生演は生演が本物、レコードはレコードが本物、CDはCDが本物、MP3で売ってたらそれはMP3が本物で、それ以外が模造品だよ。当たり前だろ。


・機材に凝れよ。みっともないから。
・機材にこだわるなよ。みっともないから。


・音楽は空気の振動です。とても重要な真実ですね。
・音楽は空気の振動に乗ってやってくるのだそうですが、どうでもいいですねそんなこと。


・譜面で考えようとするからダメなんだよ。
・譜面で考えないからダメなんだよ。


・プロには知らないことなんかあっちゃいけないんだよ。
・人間には音楽について知り得ることなんか、ほとんど何もないんだよ。


・芸術家なら創作を他人に頼るな。自分の作品は自分で作れ。
・一人の人間がなしうる音楽なんかちっぽけすぎる。


・音楽が、人間を越えた客観的なものであることは明らかだ。
・音楽が、人間による主観的なものであることは明らかだ。


・人の数だけ真実が存在する。
・人と人との間に共通の真理があるからこそ、音楽というものが存在しうる。


・くよくよ考えてないで、どんどん作ってどんどん発表しろ。それが経験になるから。
・あのねぇ、いまや世の中に音楽って溢れてるの。お金だって限られてるし、なにより人々が音楽を聴く時間が有限なの。だから、いい加減な気持ちでテキトーな曲の発表なんかされると、たとえ無料であっても、真剣に音楽してる人に迷惑がかかるの。わかる?そういうことしちゃダメ。

(C)2008 Mushio Funazawa
2008 7/21 初稿 Upload
11/15 1項目追加、推敲


文章リスト
Top